ワシントン研修報告

実ゼミでは9月11日から13日にかけてワシントンでフィールドワークを実施しました。ホワイトハウスの見学のほか、国際機関やメディア、商社で働く日本人や日米関係強化を目的にした組織で活動する米国人に話を聞き、米国の政治状況や日米関係について議論してきました。以下はその報告です。

 

9月11

ワシントン中心街にある中華料理屋で全員そろって夕食。安倍晋三首相も訪れたことがあるという老舗の店でした。参加者はニューヨーク、バージニアアリゾナと様々な旅路を経て集まっており、久しぶりに落ち着いて食事をしたという声も。夕食会には実先生のかつての同僚の日本経済新聞ワシントン支局のSteve Keefe氏も同席し、家族の話や先生が駐在した2000年代半ばごろのアメリカ政治の話などで盛り上がりました。Keefe氏は彼の地元から選出された議員の事務所を通じて翌日のホワイトハウス見学の手続きをしてくれました。

(山崎市茅乃、神津弥里)

 

9月12

 

 ホワイトハウス

朝早く日経ワシントン支局前に集まり、徒歩で6-7分ほどの所に位置するホワイトハウスを訪れました。日差しが強くとても蒸し暑い日でした。眩しい日光に当たる正面から見えるホワイトハウスは真っ白に輝き、真ん中には、アメリカ合衆国の旗が掲げられています。ホワイトハウスは、大統領が執務するThe West Wing(西の棟)とThe East Wing(東の棟)に分かれていますが、一般市民が入れるのはThe East Wingのみで、こちらの方を見学しました。

中に入るまでいくつかの厳重なセキュリティ・チェックがあり、たどりつくまでけっこう時間がかかりました。持って入れるのは本人確認の際に必要なパスポートと携帯電話、財布ぐらいで、警備がいかに厳密であるかを知りました。

中は、きらびやかというよりも、厳かで落ち着いた雰囲気。歴代の大統領が晩餐会で使ったそれぞれ独特のモチーフがあるお皿やティーポットのセットが飾られた部屋など、時代背景を感じ取ることができます。窓からは緑豊かな庭の向こうに、ジェファーソン・メモリアルが見えます。広々としてとても綺麗な光景でした。いちばん大きな部屋はジョージ・ワシントンの絵画が飾られているEast Room。パーティーや首脳会談後の記者会見に使われる場所です。その近くには要人との食事会に使われるState Dining Roomもありました。この日も後ほど食事会があるとのことでした。East Wingは行事がない日や時間帯だけ一般公開されるのです。

(山崎市茅乃、神津弥里)

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 日本経済新聞ワシントン支局

ホワイトハウスの次に向かったのは日本経済新聞のワシントン支局。支局長の菅野幹雄さんにインタビューを行いました。トランプ政権に翻弄されるメディアのことや、メディアのあり方などについてお話をしてくださいました。

菅野さんは、東京のほかベルリン、ロンドンの駐在経験があります。何でもtwitterで発信してしまう異例の大統領の登場で支局の記者たちも以前よりさらに忙しくなっているとのことでした。記者へのブリーフィングはせず、メディアを敵視するような政権だけれども、アメリカにはニューヨーク・タイムズワシントン・ポスト、CNNなどトランプ氏を批判するメディアが多々あり、「権力の監視」という重要な役割を果たし続けているともおっしゃっていました。

取材でいちばん力を入れているのは当然ながら2020年の大統領選挙へ向けた動き。民主党の候補がトランプを打ち破れるのかどうか、様々な角度から取材しているといいます。「固定ファン」も多く共和党の8割から9割の人がトランプ氏を支持する中で、民主党の大統領候補がだれになるのか、勝てる候補を選べるのか、私たちゼミ生も注目していきたいと思います。

インタビュー終了後は、オフィスの屋上に案内していただきました。屋上からはホワイトハウスが一望することができ、最高の景色でした。天候にも恵まれ、みんなで記念撮影を行いました。 (上野 史央里)

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 国際通貨基金IMF

昼食後に、IMFInternational Monetary Fund)の副専務理事の古澤満宏さんを訪問しました。IMFは1944年のブレトン・ウッズ会議で創立が決定した機関で、主に加盟国の為替政策の監視や加盟国への融資を行い、国際貿易の促進や為替の安定に寄与しています。

古澤さんからは、IMFの主な活動と、副専務理事としての仕事内容をお話ししていただきました。まず、IMFの活動は大きく以下の3つに分けられるとのことでした。

 

1:経済状況が悪化した国に融資を行う

2:年に一度加盟国に対して経済政策に関するサーベイランスを行う

3:技術支援

 

最近だと、アルゼンチンの経済が大きく悪化しており、IMFは6兆円規模の融資を行うとのことでした。普段の私たちの生活からは考えられない金額だったので、驚きでした。

IMFは、加盟国の出資割当額であるクォータによって議決権を決めています。現在のクォータシェアの第1位はアメリカで、事実上の拒否権を持っています。アメリカはこれを手放さないだろうとのことでした。

副専務理事は加盟国に支援をするか否かなど様々な議題の会議で、議長をすることが大きな役割とのこと。会議の回数はきわめて多く、会議で結論が出ないこともあるといいます。加盟国や地域を代表する理事の間の調整も必要になるとおっしゃっていました。

「米国の意向が必ず通るということか」という質問には、「米国もあの国は気に入らないから融資しない、姿勢を絶対変えないということではない。ただ人身売買をしている国には貸さないなどの原則ははっきりしている」との回答をいただきました。

厳重なセキュリティ・チェックを受け、多少緊張しながらIMFの門をくぐった私たちでしたが、古澤さんの親しみやすいお人柄もあり、とても楽しくインタビューを行うことができました。    (大木裕太郎)

古澤氏size reduction

 

 米日カウンシル(US-Japan Council)

午後4時から米日カウンシルのWeston Konishiさんにお話を伺いました。この方はパートナーシップ・開発担当のディレクターをしておられます。米国のアジア政策や日米関係の専門家でもあります。

Konishiさんは初めに、「ともだちイニシアチブ」について話して下さいました。これは東日本大震災をきっかけにうまれたプログラムで、教育や文化交流を通じて日米の次世代のリーダーの育成をめざすものです。学生だけでなく社会人の方も参加できます。それによって日米関係を強化することが目的です。

Konishiさんは、アメリカに留学に来る日本の学生が減り、一方で日本に学びに行くアメリカ人も減ってきていることが気がかりだと言います。日本人の海外留学が減っているのはなぜか。一つの理由として、日本の若者が「日本」という安全で豊かな環境で生活することに満足しているからではないかとKonishiさんはおっしゃっていました。

トランプ政権の政策についてもいろいろ話してくださいましたが、政権誕生の背景には、寛容や開放性を尊重する米国の価値観についての社会の考え方がやや変わったことがあるのかもしれないと言っていました。

お話の最後に私たちから、オバマ政権からトランプ政権になったことで日米間の問題は増えたと感じるかと質問してみました。この質問に対してWeston Konishiさんは、もちろんオバマ大統領の時とは明らかに違うとおっしゃっていました。皆さんもご存知の通り、トランプ大統領はこれまで日米が培ってきた関係に無頓着で、日本に対して決してフレンドリーではないと…。私たちも、そうだろうと感じていましたが、今回お話を聞いてやはりそうかと確信しました。

1年後に行われる大統領選挙の結果がどうなるのか楽しみです。1時間にわたり丁寧にたくさんお話をして頂いてとても勉強になりました。ありがとうございます!

(有本美咲)

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9月13日

 

 米州住友商事ワシントン事務所

午前中はまず、米州住友商事会社ワシントン事務所でシニアアナリストを務めておられる足立正彦さんにインタビューを行いました。

足立さんは私たちのために特別に資料を作って、非常にわかりやすくトランプ氏の政権運営や2020年の大統領選の展望などについてお話してくださいました。

トランプ大統領は自らの支持基盤を意識した政策と専門家を用いない政権運営を進めていますが、統治が難しくなっているのが現状だそうです。その原因は中間選挙共和党が下院で敗北し、下院は民主党、大統領と上院は共和党というねじれの状態になっていることがあるといいます。民主党共和党は対決姿勢を強めており、メキシコとの「壁」建設などで激しくぶつかりあっています。

2020年の大統領選挙については、世論調査上は民主党が有利としたうえで選挙に影響する様々な要因について説明していただきました。お話を聞いて無党派層が誰に投票するのか、また投票に行くのか行かないかも大統領選ではとても重要になると感じました。

レクチャーの後は、北朝鮮の非核化、中東政策、対中政策について私たちから質問をしました。私たちが日々追っている米中摩擦問題では、米国はアイゼンハワー政権以来の厳しい対中戦略をとっていると指摘されました。さらに両国の課題についてもお話していただきました。中国は経済力や技術力を高める一方で、今後少子高齢化が進むことやセーフティネットが整っていないことなどの弱点もあるとのことです。アメリカはTPPから離脱するなど内向きの姿勢が強まっており、その結果、世界の中での指導力が低下しているといいます。「開かれた世界」を守っていくという点で、今後は日本の役割が重要になるとおっしゃっていたのは印象的でした。

日本のあり方が大切になる時代だからこそ、私たちが世の中の出来事に関心を持ち、どうすれば社会がよくなるのか考えていかなければいけないと思いました。貴重な機会を提供していただき本当にありがとうございました。(上野 史央里)

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 ワシントン日米協会(Japan America Society of Washington DC)

続いてJapan America Society of Washington DC(JASWC)の理事長、Ryan Shafferさんを訪問しました。JASWDCはあらゆる世代のアメリカ人と日本人が日米関係を大切にし、貢献する世界を目指しており、教育・ビジネス・文化・政策などの各分野にわたるプログラムを実施しています。

JASWDCの主な活動に、来年で60周年を迎えるThe Sakura Matsuriがあります。ワシントンの桜祭りの最終日に行われ、米国で日本文化を祝う祭りの中では最大級のものになっているといいます。

他にも、書道のクラスや日本語のクラスを開講しており、ワシントンDCで簡単に日本文化に触れられる取り組みを行っているとのことでした。

Shafferさんからは、JASWDCの活動内容だけでなく、私たちのゼミの研究内容であるアメリカの政治についてもお話していただきました。

Shafferさんによれば、本来の共和党は現在よりも国際主義的だが、トランプ政権が誕生したことで変わってきているといいます。内向きの傾向は共和党だけでなく、民主党にも見られるトレンドとのことでした。リーダーとして世界を牽引し、世界のことに関与してきたアメリカですが、その反動として自国第一主義に傾いてきているようです。

Shafferさんはまた、トランプを支持していなくても、共和党支持なのでトランプに投票した人も多いことを見落とさないでほしい、得票数で上回っても選挙に負けることもある現在の大統領選の選挙制度を見直す必要があるとも指摘されました。

日米同盟の重要性について理解していない人が大統領として統治しているという異常な時代だからこそ、日米協会のような組織の役割は意味を持つともおっしゃっていました。  前日の米日カウンシル訪問と同様に、日米関係を良好に保つ活動について学べただけでなく、アメリカの政治について直接アメリカ人の専門家から意見を聞く機会を得られたのは大きな収穫でした。(大木裕太郎)

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 地球環境ファシリティ(Global Environment Facility)

午後は、地球環境ファシリティという国際機関の最高経営責任者(CEO)である石井菜穂子さんにお話を伺いました。石井さんはこれまでのキャリアの半分以上を海外で過ごされており、GEFの仕事も今年で8年目になるそうです。ずっと日本で暮らしてきた私たちからすると、海外でトップの仕事をこなすことは想像できることではないので、話を聞けて感激しました。

気候変動問題、生物多様性の維持、砂漠化の防止などの環境問題に取り組む活動に資金支援をするのがGEFの役割です。職員は世界中から集まっており、GEFのミッションをよく理解してもらい、組織をまとめていくのがCEOとしては重要な仕事になるとのことでした。

石井さんのお話の後、私たちは疑問に思ったことを質問してみました。

地球環境の悪化には私たち人間の経済活動や住み方、食が関わっていることが多く、どうすればこれまでのやり方を変え、良い環境に変えていくことができるのかということです。

石井さんは、欠かせないものの1つはやはり教育だとおっしゃっていました。GEFでは教育プログラムは実施していないけれど、教育が大事だと考えている人は多く、これからプログラムに導入しようと考えておられるそうです。私たちのような若い人たちの声も大事にしていると話してくださいました。

アマゾン熱帯雨林の火災の問題やトランプのパリ協定離脱の問題についても質問をしました。石井さんからは「ブラジルの市民が声をあげたことが世界的な問題として認識される力になった」「政権は離脱を言っても米国の州や市は温暖化ガス削減に積極的だ」といったポジティブなお答えをいただきました。

お忙しい中、わかりやすく丁寧にお話していただきありがとうございました!

(有本美咲)

石井