東京研修

 実ゼミの3回生は9月7日から9日にかけて東京でフィールドワークを実施しました。ゼミ内のグループ研究に役立てるため、国際機関の元トップや元外交官から現役の国会議員、ジャーナリスト、経済団体幹部、オーガニックの専門家まで幅広い分野で活躍する人々からお話をうかがい、意見交換をしました。以下はその報告です。

 

9月7日

 東京・内幸町にある日本記者クラブの会議室で打ち合わせを兼ねて全員で夕食会。そのあと、日本記者クラブの方のご厚意で、日々記者会見が行われる記者会見場や招かれた内外の要人が待機する貴賓室に入ることができました。岸田文雄首相をはじめ、過去に会見に招かれた人たちによる揮毫を集めたアルバムも見せていただきました。

 


9月8日

 まず、最初にお会いしたのは食品の認証機関「リーファース」の代表の水野葉子さん。アメリカで生活する中でオーガニックの重要性に目覚め、リーファースを設立するに至った経緯や、日本におけるオーガニックの現状に関するご意見を聞かせていただきました。日本と海外でのオーガニックに対する意識の違い、有機認証の目的や方法について学ぶことができました。我々のチームはオーガニックの普及に向けた課題について研究していますが、生産者の働く姿など現場を子供たちに見せることでオーガニックを知ってもらい、食に関して関心を持たせることが普及のためには重要だというお話が印象的でした。 (南健人)

 

 

 水野さんが認証している表参道のオーガニック・レストランで昼食をとったあと、大手町にある日本経済新聞社を訪問しました。3月までワシントン支局長を勤めていた菅野幹雄・上級論説委員編集委員から「米国の変貌と世界の視線」というテーマで話を伺いました。アメリカの選挙戦において演説や支持率を高めるための方法が変化していることなど、トランプ大統領任期中に感じたアメリカの実像や、バイデン政権の誕生に至るまでの臨場感溢れる取材経験を1時間にわたってお話していただきました。選挙取材ではトランプ大統領がメディアの陣取る方角を指して「彼らは国民の敵だ」と叫ぶ現場にも立ち会ったとのことでした。菅野さんは私たちの質問にも親身に回答してくだり、とても心の優しい方であると感じました。(松田珠実)

 



9月9日

 朝は関西学院大学の丸の内キャンパスに集合。まず、トランプ政権時代に経団連のワシントン事務所長を務めていた山越厚志さんから「リアルなアメリカ」というテーマで話を伺いました。私たちは普段、報道されるニュースからアメリカ国内の事情や内政を判断することが多いですが、それはごく一部の姿にすぎません。山越さんはワシントンというアメリカの中心地で仕事をしつつ、全米を回り、そこから見て感じたアメリカ像を語ってくださいました。本来助け合いの場であるコミュニティが衰退していることや、人々(とくに地方に住む人々)が希望を失っていることが二極化の原因だと話されていたことが印象的でした。解決策として一人一人にホープを持たせるような政策の重要性を強調されました。我々のチームは二極化とメディアの関係を研究していますが、山越さんは我々の質問に答えて、「主流メディアが地方の草の根の社会に入って人々の生活の実情をもっと積極的に取材することが重要」と指摘していました。(松田珠実)

 

 

 昼食後は、元外務事務次官でトランプ政権時代に駐米大使を務めた杉山晋輔さんに話をしてもらいました。冒頭に学生へのメッセージとして「自分の価値判断を自分の基準でしっかりできる人になって欲しい」というとても強いお言葉をいただきました。

 杉山さんからは、主にアメリカの政治や日米中の関係についての話をお聞きすることができました。ワシントン駐在中はトランプ大統領の言動に振り回され、「ジェットコースターに乗ったような毎日だった」といいます。未だにアメリカの政界において大きな影響力を持っているトランプ氏ですが、彼は間違いなく国民に選ばれた大統領であり、トランプ政権はアメリカの格差社会が生んだものだ、と話されていたのがとても印象的でした。

 レクチャーの後は、我々のチームが研究している米中対立問題を中心に質問させていただきました。杉山氏は「日本経済は中国なしでは成り立たない」「米ソ冷戦と比較すると、今の中国はソ連と比べものにならないほどの力がある」と強調されました。だからこそ、日本は今後も中国との対話を深めるべきであり、アメリカと中国との間にあって適切な立ち位置をとっていかなければならないと感じました。一方で、台湾問題を巡り、日本も中国に対するアメリカの軍事戦略に組み入れられる可能性もあると知り、今後の日中関係は緊迫したものになっていくとも感じました。お忙しい中、貴重なお話をしていただいたことに感謝します。(加部晴香)

 



 次にお話を聴いたのは駐米公使、財務官やアジア開発銀行総裁を歴任した中尾武彦氏(現在みずほリサーチ&テクノロジー理事長)です。とくに記憶に残ったのは「パクス・アメリカーナ」が崩壊し、中国が圧倒的な存在感を発揮し始めたという説明。アメリカに迫る経済大国となった中国は「失われた屈辱の歴史」から脱却し、過去の栄光を取り戻そうとしているというのが中尾氏の見方でした。 そして中尾氏は、現在の中国の状況を歴史に照らしてみると、ビスマルクによる統一後、海軍力を増強したドイツに該当すると語りました。すなわち陸軍国だったドイツが海軍力を増強すると、海軍国のイギリスが警戒し始め、結局両国は世界大戦を繰り広げたという話でした。この説明には私も深く同感しました。

 米中対立を研究している我々のチームからは「世界は米中という二つの勢力に分断される可能性があるか」という質問を投げかけました。 それに対しては「グローバル化で世界が発展してきたので、分断は避けた方がいいが容易ではない。鍵の一つは中国が他国に穏やかな態度で臨むかだ。中国が(台湾問題などで)強硬な姿勢に出れば、世界は2つに分断される可能性もある」との答えでした。私からは中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立当時、ご自身が総裁を務めていたアジア開発銀行(ADB)の動きはどうだったのかと質問しました。 中尾氏はAIIBの総裁になる人物は元ADBの副総裁であり、事前に話を聞いていたとしたうえで、当時の安倍首相には「いまはADB中心で行くべき。日本は無理に中国主導のAIIBに入る必要はない」と説明したといいます。 華麗な経歴をあまねく経験したことから出てくる深みのある知識と洞察力が際立つわかりやすいお話をしてくれました。 (キムヨンミン)

 



 午後4時半からは国会議事堂の目の前にある衆議院議員会館を訪ね、なんと前・環境大臣小泉進次郎さんにお話を伺うことができました! まず小泉さん自身がいま興味・感心を持たれている分野として、カーボン・ニュートラルとサイバー・セキュリティをあげ、それぞれについての考えを丁寧に説明していただきました。世界はカーボン・ニュートラルをめざして進んでおり、日本がそれに真剣に取り組むことは地球環境に良いだけでなく、日本経済の将来、つまり私たちの雇用や暮らしにとっても重要なことなのだと強調されていました。

 その後、我々ゼミ生一人一人との質疑応答に時間をさいてもらいました。話題は今後の環境政策のあり方から、学生の人生相談、さらにはちょっと答えづらい話まで広がりましたが、どの質問にも親身になって、とても分かりやすい言葉で答えていただきました! 当初30分の予定だったのですが、身を乗り出すような熱心さでお話していただき、結果的には1時間以上も対話が続きました。将来有望な国会議員の方とお話しするという貴重な経験ができ、ゼミ生全員にとって得るものがあった、実りの多い会合となりました。(松田珠実)