実ゼミでは9月4日から8日にかけてワシントンでフィールドワークを行いました。ゼミとして米国研修を実施するのは4年ぶり。コロナ禍でしばらく断念していましたが、ようやく実現することができました。ホワイトハウスや議会議事堂の見学のほか、ワシントンで働く日本人ジャーナリストや商社マン、日米関係の強化を目的とする組織で働く人々、中絶の権利擁護のために研究調査や活動をしている団体のメンバーらに話を聞き、意見交換をしてきました。以下はその報告です。

 

9月4日

 ワシントンのダレス国際空港に到着。空港までの延伸が実現してから間もない地下鉄に乗って宿泊先があるバージニア州のロズリンへ。夜は近くのメキシカンのファーストフード店で食事兼打ち合わせ。

 

9月5日

 日本経済新聞ワシントン支局にまずお邪魔し、ワシントンを一望のもとに眺められる屋上に向かいました。すぐ目の前にはホワイトハウス、その先にはワシントン記念塔が見えました。

そのあと、現地のアメリカ人を通じて訪問予約していたホワイトハウスへ。ホワイトハウス周辺にはたくさんの警官が警備にあたっており、非常に厳重な態勢でした。

ところがホワイトハウスの検問所でいきなりの番狂わせに見舞われました。訪問ツアーの予約確認が取れないとして、門前払いされてしまったのです。何とか8日の午前に再予約を取りました。アメリカではこのような杜撰な管理が珍しくないようで、ドイツ人の団体の方たちも同じように帰宅を余儀なくされていました。     (角晃太郎)

 

昼食に映画で見るような大きなハンバーガーをみなで食べた後、米国笹川平和財団を訪問。、秋元諭宏理事長から、50年間にわたって「文化戦争」の下にあるアメリカの社会の現状を丁寧に説明していただきました。「多様性」を重視してアメリカを良い社会にしようとするリベラルな人々は、白人が有利になるようにつくられてきた仕組みを変える必要があると主張します。これに対して、従来のアメリカの伝統的な価値観やそれにもとづく仕組みを擁護しなければならないと感じる人々が出てきました。そうした人々の気持ちを代弁する形でトランプのような、これまでにないタイプの大統領が誕生したのだといいます。経済・社会・政治の権力を一部のエスタブリッシュメントの人々が握っていること、あるいはそういう認識が強まっていることもまた分断を広げることにつながっているとのことでした。

秋元さんのお話で非常に印象に残ったのは「アメリカは今解決できない問題に足を突っ込んでいる」という言葉です。アメリカといえば、自由、人権の先駆者というイメージを持っていましたが、実際にはそのあり方を巡って出口のない国内の分断が続いていること、違う背景と理想を持つ人々が同じ国で生きることが容易でないことを学びました。また、自由や平等を求めるあまり、一部では行き過ぎも起こり、そのことが新たな分断を煽る要素へとつながっているようにも感じました。

解決できない問題に足を踏み入れたアメリカではありますが、これからの動きにより注目していこうと思います。  (島田きらら)

 

米国笹川平和財団でお話を伺ったあと、日米協会のElece Smithさんらとお会いしました。

日米協会は日本とアメリカを繋ぐ国際交流団体であり、EleceさんはNational Japan Bowlという大会のディレクターを務められてきた方でした。National Japan Bowlはアメリカの高校生が日本の歴史や文化、日本語等の知識を競う大会で、毎年約200人が参加するとのことです。日本に関する大会が全米規模で行われているとは知らず、日本の影響力がそれなりに大きいことに驚きを受けるとともに、第二言語にもかかわらず日本語や日本について勉強するアメリカの高校生の姿勢に感銘を受けました。

セッションの後半はゼミメンバーのグループ研究テーマに関する質疑応答の時間を設けていただきました。人工妊娠中絶を研究するチームに対しては、「中絶は女性の権利として守られるべきだ」と説明され、また「男性も問題について認知する必要がある」と指摘していました。

銃規制を研究するチームに対しては、合衆国憲法ができてから長い年月が経っていることや、街中で銃を持つ人が増えることに対する恐怖などについてお話いただいたうえで「銃規制を推進させるべきだ」という旨の意見をお聞きしました。

英語での会話ということもあり最初はゼミメンバーにも緊張の表情が見られましたが、Eleceさんにところどころ日本語を使って説明いただく場面もあり、終始和やかな雰囲気で時間を過ごすことができました。   (安岐日暖)

 

 この日の最後に、米州住友商事ワシントン事務所を訪問しました。所長の吉村亮太さん、調査部長の渡辺亮司さんらに米国住友商事の活動や米国の政治情勢についてお話していただきました。

 吉村さんからは、ワシントン事務所の役割は調査と政府渉外の主に2つだと説明していただきました。とくに政府渉外の仕事の一つである議会などへのロビイングについて詳しく教えてもらいました。ビジネスは政府がつくる法律や規制に基づいて行う必要があります。ただ、法律や規制などを作る議会や政府は民間企業がどのような活動をしているかよく知らないため、おかしなルールがうまれてしまう恐れもあります。要望を伝えるロビイングはそうした事態を防ぎ、企業の事業リスクを最小化し、利益を最大化するためにも重要なことだといいます。

 渡辺さんからは米国の政治情勢について話を聞きました。米国では民主党共和党の二極化が進んでおり、その原因はメディアの動向やゲリマンダリングが目立つ選挙の区割りなど様々あり、その影響も多くのイシューでの両党や支持者の対立などに顕著にみられます。2024年の大統領選挙に向けては、民主党共和党の指名候補がそれぞれバイデン氏、トランプ氏であった場合、現時点でそれぞれの支持率は47%と46%と誤差の範囲内であることから、トランプ氏が再選する可能性はあるとおっしゃっていました。

 最後に私たちからロビイングや銃規制、中絶問題について質問させていただきました。銃規制にも中絶にも共通することとして、1つのトピックだけで投票行動を決めるシングルイッシュー・ボーターが存在することから「選挙に行く動機づけがされるようなイッシューかどうか」がこれらの問題がどうなるかを占うカギになるとの話をしていただき、とても勉強になりました。 (八田真衣)



 9月6日

 この日も朝早くから地下鉄に乗り、議会議事堂へと向かいました。ワシントンの中心部から少し離れており、また違った雰囲気が印象的でした。議事堂に到着すると、セキュリティ・チェックがあり、ここでもホワイトハウスと同じように警戒態勢が厳重でした。

議会議事堂の中には、偉人の銅像が沢山置かれていました。特に「自由の像」と言われるものは1番目立つところに展示されており、迫力がありました。初めにアメリカと議会の歴史について描かれた短い映像を見ました。熟議によって共通点や妥協点を見出すのがアメリカ議会の伝統であり役割であると強調していたのが印象的でした。

そこから、40年以上もここで仕事をしているという女性ガイドによる議事堂の案内が始まりました。その昔最高裁判所として使われていた場所や、独立13州の像などの場所を順番に巡りました。1番メインのRotunda(ロタンダ)と言われるホールの天井には神格化されたジョージ・ワシントンが描かれていました。とにかく大きくとても迫力がありました。

最後に入った部屋がNational Statuary Hall(国立彫刻ホール)と言われる場所で名前の通り、たくさんの彫刻が飾られていました。想像以上の迫力に圧倒された議事堂訪問でした。(入船涼太)

 

昼頃に訪問した日本経済新聞ワシントン支局では、芦塚智子記者、大越越匡洋支局長にお話しを伺いました。私たちは、アメリカの中絶問題、銃問題を研究しているので、今回そのふたつの問題を中心に質問しました。中絶や銃問題を含む社会問題を20年以上取材している芦塚記者には、実際にアメリカに住んで感じることなど、外側からはなかなか分からないアメリカの状況を聞くことができました。近年のアメリカの状況として、「シングルイッシュー・ボーター」という1つの問題だけで投票する政党を決めてしまうという現象を挙げられていました。現在、中絶問題も銃問題もひとつひとつの問題が政治化しています。これについて、芦塚さんは「人が動くか、世代が変化するかでないと、現在の政治対立は収まらない」とおっしゃっており、銃問題や中絶問題だけでなく、今のアメリカのひとつひとつの問題にも当てはまることだなと考えました。「世代変化」というのは、今後重要なキーポイントとなってくると思いました。芦塚さんと大越さんは私たちの質問や疑問に対して真剣に向き合って答えてくださり、今回の訪問はとても実りある機会となりました。

(松尾美羽)

 

午後には、中絶の権利推進派の研究調査団体「ガットマッカー研究所」を訪問し、Amy Friedrich-Kamikさん、Dora Maradiagaさん、Talia Curhanさんにお話を伺いました。

日本に全く縁のない人たちとの英語だけでのやりとりということもあって私たちはそれまで以上に緊張して会場に向かいましたが、ゼミで米国の中絶問題について研究しているので、直接この問題に取り組んでいる方々からお話を聞き、質問できたことは大変有意義でした。

初めに、Doraさんから米国の中絶問題の歴史や2022年の最高裁判決による影響を説明していただきました。中絶問題は文化的な問題でありながら政治的な問題にもなっており、選挙の候補者らは議席や権力を保持するためにこの問題を利用しているといいます。昨年の最高裁判決によって憲法上の中絶の権利が否定され、州によっては避妊薬さえも制限されています。しかし、世論の大部分が「リプロダクティブ・ヘルス」の権利擁護に賛成しており、判決によって政治的な関心はより大きくなっているとおっしゃっていました。

続いて、Taliaさんからガットマッカー研究所の活動について教えていただきました。主な活動は中絶に関する研究調査であり、米国内や世界で、政策策定者に向けて科学的根拠に基づく政策の効果などについて発信しています。米国内では州レベル、連邦レベルの双方の政府へアプローチしアドバイスしていますが、州政府の方が政策決定までのスピードが速く、連邦政府は多くのトピックやアクターが存在することから時間がかかり政策を動かすのがかなり難しいといいます。

また、中絶と同様に宗教的な対立があった同性婚について、長い論争を経て容認に至った理由について説明してくれました。容認論が増えた背景には、テレビ、映画などポップカルチャーでの扱いや世代交代による文化的なシフトと、有名人を中心にオープンに話されるトピックになったことがあると指摘されていました。それに比べ、中絶はしたくてする人はいないことから話されることが少なく、このことは2つの問題の重要な違いの一つだと感じました。

この後、今後の中絶の権利をめぐる州政府や連邦政府の政策展望や、対立が収束する条件などについて多くの質問をさせていただき、研究を進めるうえでヒントとなることをたくさん学ぶことができました。とくに「中絶の権利はいずれ連邦法で認められる」、「人の権利にかかわることだから、それを否定する法をつくるなら妥協はできない」といった言葉からガットマッカーの方々の強い信念を感じられたことが非常に印象的でした。この貴重な機会を今後の研究に十分活かしていきたいと思います。 (八田真衣)

 

9月7日 

自由行動。

 

9月8日

5日には入れなかったホワイトハウスに今回はスムーズに入ることができました。ホワイトハウスは中に入るまでに厳重なセキュリティ・チェックがあり、持ち込み可能な物はパスポート(身分証明書)、スマートフォン、財布ぐらいに限定されており、カバンすら禁止されていました。

ホワイトハウスは真っ白に輝き、芝生や中庭の花々は丁寧な手入れが行き届いていました。中は大統領が居住するThe West Wing(西の棟)と来客入り口のThe East Wing(東の棟)に分かれており、私たちはThe East Wingを見学しました。中には映画館や歴代の大統領、ファーストレディの写真・銅像が飾られていました。面白いことに歴代の大統領の写真は複数見つけることができましたが、何故かトランプ大統領の写真だけは小さく一枚だけしか飾られていませんでした。ホワイトハウスは白い外壁が特徴的ですが、中の部屋は対照的にカラフルでブルールーム、グリーンルーム、レッドルームなど色がテーマになっている部屋があり、とても美しいです。18世紀から19世紀のシャンデリアや金色の紋章の家具があり、歴史を感じられました。また、テレビでよく見るような首脳会談や記者会見に使用される部屋もありました。

 訪問後はホワイトハウス・ギフトショップにて、実際に見学できなかった大統領執務室(The Oval Office)を模したフォトスタジオで写真を撮りました。とても貴重な体験をすることができました。 (角晃太郎)

<番外編> 

9月9日

 一部ワシントンに残ったメンバーで全米ライフル協会(NRA)の本部に向かいました。2000丁以上の銃が展示されているミュージアムを訪問した後、室内の銃射撃練習場に入ることができました。待合室は週末とあって多くの人たちで混みあっていました。10ほどあるブースでは自分の銃を持ち込んで人々が自由に銃を撃っている光景が見られました。中には中学生ぐらいの息子と父親の親子連れの姿も。女性や黒人など性や人種の面でも多様な人々が集まっており、練習場の職員から指導を受けている人もいました。射撃練習が米国人にとってはごく日常的な活動の一つであるということが実感できました。